高校サッカー選手権とはプロレスなのか!? 緑の芝生がリングに見えた日

2022年12月28日、国立競技場。第101回全国高等学校サッカー選手権大会の開幕戦、成立学園と津工業の試合は僕にとっても大一番となりました。


普段は楽しいだけのサッカー観戦ですが、この日は違います。一緒に観戦するはずの中村氏が仕事で来られなくなってしまい「試合のレポートを書いてみるのはどう?」と問いかけがあったのです。二つ返事で「書きたい!書きます!」と答えたのですが、観戦記事は自分のブログでなんとなく書いたことはあるけれど、しっかりと向き合って書いたことはないからです。

果たしてしっかりとした記事が書けるだろうか。スタジアムに向かう道中、不安な気持ちに襲われて負けそうになっていた僕に、ふとアントニオ猪木さんからから叱咤の声が届きました。


「出る前に負けること考えるバカいるかよ!」

僕はサッカー観戦が大好き。でも、同じくらい……いや、それ以上かもしれないほどのプロレスファンなのです。全日本は四天王プロレス、新日本は闘魂三銃士から追いかけてきました。

西の聖地と呼ばれていた、今は無き博多スターレーンに数え切れないほど観戦に行きました。全日本プロレス、WAR、FMW、みちのくプロレス、全日本女子、JWP……。新日本は福岡ドームで行われたレスリングどんたく。アントニオ猪木の引退ロード「INOKI FINAL COUNTDOWN」初戦のグレート・ムタとの激闘は今でも脳裏に焼き付いています。

高校生の時はランチ代を節約して週刊プロレスを毎号購入してすべての記事を読みました。やがてプロレスラーになりたいと思うようになり、友人が学校に持って来た書籍「プロレスラーになる方法」を仲間で回し読みしては休み時間は廊下でプロレスごっこ。

でも、本書に書いてある入門テストの条件のひとつ「頭で支えるブリッジ3分間」がどうしてもできなくてレスラーを目指すことを諦めてしまったのです。なぜ、諦めてしまったのだろう。

プロレス団体は年間の戦いをシリーズという、興行をひとまとめにしたツアーを組むところが多く、シリーズの初日を開幕戦としています。これからどのような戦いが繰り広げられストーリーが進んでいくのか、想像をふくらませて戦いの場へ向かいます。

僕の中では高校サッカーだってきっと同じはず!どんな試合展開になるのか、80分で決着はつくのか。そして、どちらの高校が2回戦へ駒を進めることができるでしょうか。

一緒に観戦する対戦相手はすでに戦いの場に待ち構えていました。はやる気持ちを抑えきれず、僕はゴングを待たずに彼に先制攻撃を仕掛けます!

「あーっと、両者もつれあってリング下へ!反則上等の場外乱闘だー!」

プロレスだったら、きっとこんな感じで試合が始まるかもしれません。

しかし、僕はプロレスラーではないのです。奇襲などせずにあいさつをかわして他愛もないことを話しながら入場ゲートへ向かいます。

スタジアムに入るとスタンドデッキにたくさんの高校生たちの姿が!そうか、開幕戦の前に開会式もあったのでした。今日対戦する2校以外の高校名が入ったジャージを着た子たちの集団に紛れながら大会パンフレットを求めて売店へ向かいました。表紙に中村俊輔氏の姿が載っていて、水色を貴重としたデザインはパッと見ると横浜FCのグッズのようです。

ゴール裏スタンドに足を踏み入れるとピッチの鮮やかな緑が、目に飛び込んできます。私たちは地元東京のBブロック代表、成立学園を応援するためにゴール裏自由席(北側)で観戦することにしたのですが、日差しがとても眩しい!しかし、そのおかげで試合開始までの時間、寒さに震えることはありませんでした。


応援席エリアに目をやると、成立学園(以下、成立)は青色がチームカラーでタオル応援が印象的。一方でオレンジ色の津工業(以下、津工)はスタンド前方で大きな旗を掲げていました。


国立の舞台で我が校を応援することができるなんてうらやましいな。など考えていたら、選手たちが入場してきました。成立のユニフォームはパンフレットの写真とは異なるデザイン。胸の「SEIRITZ」表記がプロクラブのようで凛々しく見えます。津工は、パンフレットと同じく胸番号と校章のみでシンプルなユニフォーム。円陣を組んで掛け声、勝負に対する気合いがみなぎります。

いよいよキックオフです!

開始早々の3分、津工業が勢いよく右サイドから左へサイドチェンジからのシュートを打ち、最初のコーナーキックです。惜しくもゴールにはなりませんでしたがその後の4分、立て続けにコーナーキックを得ます。

しかし、ここもゴールならず。

さらに7分、津工は先制点を挙げる絶好のチャンスでしたがGKにセーブに阻まれます。

前半序盤から襲いかかる津工の攻撃に耐えた後に、躍動する成立の選手に目が行きました。9渡辺 弦選手です。

うーん。試合のレポートって難しい……。

そうだ!ピッチで戦う高校生たちのプレイを「プロレス」に例えることができないだろうか。渡辺選手のプレイを見て感じたことを、実況風に例えてみるとこんな感じでしょうか。


「おぉーと、左から#9渡辺選手がサイドを駆け上がり津工のゴールへ迫ります!
スピード感あふれる華麗なその姿はIWGPジュニアヘビー級元王者のワイルド・ペガサスだ!」


おっ、思いのほかできちゃう? この例えはおもしろいかもしれない。

試合時間17分、津工の#9選手がファールをもらいフリーキック。ゴール前に蹴り込まれたボールは密集状態から#11山副選手がシュートを放つも惜しくも右枠にそれてしまいます。

23分、成立はボールを回して攻撃のチャンスを伺います。津工がリトリートしているため、なかなか攻め上がることができません。

前半中盤は、こう着状態が続きます。

プロレスだとロープワークで相手の技をかわしたり、お互いに組み合って力比べをしたりしている感じですね。

35分、ついに試合が動きます。

成立#3大川選手が右サイドから大きく左へサイドチェンジ、それを受けた#9増山選手が前にパスを出すと抜け出てきた#5瀧川選手へスルーパスが通ります。DFをかわしてゴール前へ鋭いパス、それを#8武田がシュートを放つもGKがセーブ!そのこぼれ球を#7陣田選手が押し込み、成立の見事な連携プレイが決まり、先制ゴールを挙げます。

「冬木軍(冬木弘道&邪道&外道)のコンビネーション、スーパーパワーボムが炸裂!相手に大きなダメージを与えます!」

この技は、新日本プロレスのユニットで元冬木軍の邪道が属するゲリラズ・オブ・ディスティニー(G.O.D)のタマ・トンガとタンガ・ロアに受け継がれているので、令和のプロレスファンにもこのインパクトは伝わると思います。

先制した成立は、攻撃の手を緩めません。

40分、スーパーパワーボムをカウント2.9でかろうじて返した相手に止めをさすかのような、ゴールが決まります。

コーナーキックから#11佐藤選手が頭で合わせ、ボールは左ポストに当たってゴールネットに突き刺さります。

「オカダ・カズチカの打点の高いドロップキックが相手レスラーの頭上にヒット!ジュニアヘビー級を超える迫力、ヘビー級のインパクト!レフェリーのレッドシューズ海野も思わず一緒に飛び跳ねてしまうほどだ!」

成立が2点を挙げ、ハーフタイムへ。
県大会では無失点だった津工は、前半で2失点となり苦しい展開になりました。

後半、劣勢に立たされている津工、後半会直後から攻めに出ますが44分、成立#6横地選手から試合序盤から注目していた#9渡辺選手にパスが渡るとキーパーが構えるニアサイドにシュートが決まります。

ダメ押しとなった3点目は、先ほど渡辺選手のプレイを例えた90年代の新日本プロレスマットにおいて人気を博したワイルド・ペガサスがリングを駆け回っているかの如く魅せた鮮やかなゴール!

獣神サンダー・ライガー、エル・サムライ、大谷晋二郎、ハヤブサらがエントリーした大会で、ブラック・タイガー、外道、ザ・グレート・サスケといったジュニアヘビー級の猛者たちから次々と3カウントを奪い、トーナメントを制したSUPER J-CUP 1st STAGEを思い起こします。

この後は3点差がついて成立は落ち着いたプレイが続きます。スタンドの成立応援席では押せ押せのムードとなって元気でタオルを回して声援をおくる学生の姿が見えます。

3-0となり成立がこのまま余裕の展開で試合が進むかと思いきや……61分、津工が1点返します。

#6山副選手が中央から右に開きパスを受けると、ゴール前に待ち構えていた#9増山選手へクロスに合わせてシュートを放ちゴール!

前半に猛攻を受けて力の差を感じていたかもしれない津工ですが、見事な連携でゴールをこじ開けます。

タッグマッチでヘビー級の選手へ立ち向かう2人のジュニア選手が決めたツープラトン・ブレーンバスターで巨漢選手をマットに叩きつけたような印象的な得点シーン!

しかし、1点返された成立は落ち着いたプレイを続けてスコアは3-1から動かずに終盤を迎えますが、試合終了まで10分を過ぎたあたりから、津工が攻め上がります。

すると73分、津工のキャプテン#10庄司選手のクロスに#24鳴川選手が頭で合わせてピッチに叩きつけたヘディングシュートが決まります。

「初代タイガーマスクのデビュー戦を務め、最強のライバルだったダイナマイト・キッドのダイビングヘッドバットだ!3点のビハインドをもろともせず、1点差まで詰め寄る津工の執念を見た!」

76分、成立はキーパーと1対1、津工を突き放す4点目のチャンスが訪れますがキーパーのファインセーブ!アディショナルタイムは4分、津工の猛攻を、思わずファールで止めます。

試合終盤に見せた両校の攻防は、超ヘビー級レスラーの小橋建太と佐々木健介がみせたチョップの打ち合い!意地の張り合い!スタンドの観客も思わずこぶしを握って戦況を見守る中、試合終了のゴング!!……もとい、ホイッスルが鳴り響きます。

成立3-2津工で、成立が2回戦進出を決めました。

県大会を無失点で国立の舞台へ勝ち上がってきた津工は、激戦区東京の代表校相手に失点を重ねて浮き足立ってしまった感も否めませんが、2得点を挙げて県代表の意地を見せてくれました。

開幕戦に国立競技場で試合ができるのは1試合、2校のみ。勝者と敗者が必ず決まるため両チームのメンバーや応援スタンドが試合後に見せる表情や雰囲気はまったく異なり、天と地以上の差ができてしまいますが、僕たち観客はピッチに向かって惜しみない拍手を手が痛くなるまで送るのです。早く全ての観客席で声を出して応援できる日が来ることを願いながら。

試合を終え、おじさん二人は新宿へ移動します。足を運びたい居酒屋があるのです。

お店の名は「エビスコ酒場」。


プロレス団体DDTプロレスリングの選手が経営、お店を切り盛りしています。この日は、KUDO選手、伊橋選手、中村選手がお店に立っていました。

名物メニュー「東スポ餃子」を注文して、ビールで乾杯。寒空で冷えた身体ですがビールが染み渡ります。


僕は「今回の記事、主にゴールシーンをプロレスの技に例えて書いてみようと思うんです」と語りだしました。プロレスラーが店員さんの居酒屋で、不思議な会話をしながらおじさん二人が、ああでもない、こうでもないと選手名や技の名前を口にしながらプロレスラーが手がける厚切り肩ロースのトンテキタレ、エビマヨを食べては、グイッとビールを飲む。いやぁ、最高に幸せです。

会話は意外と盛り上がり、いつの間にか昭和のプロレストークに花が咲き始めました。仲間がトイレに席を立ったとき、KUDO選手から「プロレス、お好きなんですね」と声をかけられたのです。突然だったので驚きながらも僕のプロレスに対する愛を伝えたところ、ドリンクを1杯サービスしていただきました。

気のおけない仲間とサッカー観たあとに、レスラー飯をいただきビールを片手に話に花が咲く。熱い試合を繰り広げた高校サッカーと思いがけぬプロレスラーからのプレゼント。スタジアムにもエビスコ酒場にもプロレスのリングはなかったけど、なんだかプロレスを観終わった時のようでした。

サッカー記事を書く時に、自分の好きなものの力を借りる。

応援しているレスラーがチャンピオンベルトを戴冠した試合をリングサイドで観戦したような興奮が冷めやらぬまま、ほろ酔い気分で家路についたのでした。

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